高瀬選手インタビュー

雪の中に広がる一面の柿畑。枝だけとなっている柿の木のシルエットが雪の白に映える。道宗道トレラン大会の舞台となる南砺市特産品の一つ、干柿用三社柿の畑です。

今回ここを訪れたのは、道宗道トレイルラン大会ロングの初代優勝者でもあり、選手を歓迎する南砺市民でもある高瀬選手にお話を伺う為です。第4回大会では、招待選手としても参戦下さいます。ご実家の干し柿農家を支える高瀬選手。雪の晴れ間の貴重な作業時間を割いて頂きました。

「地元初のトレラン大会、道宗道トレラン大会」

―最初に高瀬さんの地元の道宗道での大会開催が決定した時は、どのように思われましたか?

 いつも眺めている稜線を走るのは面白そうだな、地元の大会だし一度出てみようかな、という気軽な気持ちでした。どんな大会でもそうですが、「面白そう」という興味がきっかけとなります。「トレラン」という言葉が根付く前から、IOX-アローザやたいらスキー場の山を走る「クロスカントリー」という名目の大会はありましたが、「トレラン」としての大会が地元で開かれることに興味もありました。

―この大会も今年で4回目となります。初回はまだ運営にも慣れず、天気にも恵まれなかったこともあり、厳しいご意見なども頂きました。しかし昨年の第3回大会は、過去の経験を運営に活かし、天候にも恵まれ、参加者の方々からも大変ご好評を頂ける大会に成長しました。高瀬さんは、第1回の一番天候が荒れた時の優勝者ですが、あの時の感想を聞かせて下さい。

 優勝は考えてもみなかったです。第一回開催ということで、粗も含めて楽しみたいという気持ちで参加しましたので。クロカンの元日本代表の鉢蝋君が富山県で一番強い選手だと思っていましたし、実際得意の登りでどんどん離されて、そこからはマイペースで行こうと思っていました。愛知の安田さんにも抜かれ、皆の速さに感心していました。でも、荒れた道でしたが自分は一度も転んでいなかったのです。これは調子良く走れているのではないかと思っていたら、八乙女山の前後で二人を抜けたのです。そこでトップだと確信して走りきりました。まさか自分が追いつくとは思っていませんでした。

 コースに関しては、走りやすくなる分には良いとは思いますが、荒れた道は荒れた道の面白さもありますので、両方生かしながらコース作りをすれば良いのではないでしょうか。

―道宗道を走る、歩く、景色を楽しむ、様々な観点で、好きなコースはありますか?

 正直なところ、道宗道は稜線上を走るとはいえ、常に見晴らしが良いとは言えませんが、そんな中でも両サイド視界が開ける場所があり、そこの景色は好きですね。走って楽しいのは、以前ミドルやショートで使われた八乙女山頂に向かうスタート直後の急登。あそこは「登っている」という感覚が好きです。

「経験から学んだ、山に入るということ、山を走るということ」

―初めて参加する方、トレランを始めたばかりの方もいらっしゃると思うのですが、山を走るに当たってのマナー、心構え、トレーニング方法などアドバイスがありましたら教えて下さい。

 まずは長時間動くことに慣れることからですね。ロードにしろトレイルにしろ、運動習慣を付けて、動くことに慣れてから大会に出たら良いかと思います。ファッション感覚やノリで参加する人もいるのですが、山に入るのでしたらそれだけでは危険です。自分は海外のレースも経験しているのですが、2,000~3,000m級の山の大会に軽装で出ても差支えがないくらい、サポートが手厚いのです。でも日本はそのようなサポートはありません。だからこそ、自分でしっかり準備していかないと大変危険です。トレラン文化がまだ日本に入って来ていない頃、自分も立山に軽装で登り(走り)、帰りに雹に降られて大変な目に遭った経験があります。そのような経験をして生きて帰ったからこそ、自分のことは自分で守らなければと心掛けるようになりました。最低限、レインウェア、携帯、水分、補給食、お金くらいは持ち、自分の安全は確保していかないと危険だと思います。

―高瀬さんは、ロードがメインで登山などはあまりなさらないイメージがあるのですが、山を走る上でのマナー、危険回避について等、知識が豊富ですよね。度々、危険な行為をする選手への注意喚起などもなさっていますが、そのような経験を経て来たからこそ言える言葉なのですね。

「求めるトレランの未来」

―富山でも少しずつトレラン大会が増え、マラソン人気も相まって盛り上がってきたように思います。このことに対する高瀬さんの思い、富山に限らずトレランという競技の未来に求めることがあれば教えて下さい。

 参加者も、運営側も、山に入るという準備の重要さを理解する。それが当然という認識になることを望みます。走るにしても登山にしてもスピードの違いこそあれど、どちらも「山に入る」ということ。天候の悪い日、体調の悪い日は行かない等、安全管理をしっかりしてほしい。

―今回から、ショート8Kは小学五年生から参加可能となりました。昨年の最年少は、部活動でクロスカントリースキーに打ち込む16歳の男子高校生二人組でした。オフシーズンのトレーニングの一環としてトレランを取り入れ、大会にも毎回参加下さっているそうです。
これから増えるであろう若い力について、どう思われますか?

 「トレラン」という言葉に捉われず、まずは短い距離から、野山を駆けめぐるという感覚を徐々に体験して欲しいと思います。例えば、道宗道に限らず、瑞泉寺→閑乗寺公園→瑞泉寺くらいの短距離からでも。キリアンなどが出ているような海外の有名な大会でも、裏山麓スタート→低山山頂ゴールというような、子供達が「かけっこ」のノリで参加できる大会も豊富なので、日本でもそのような大会が増えると良いと思います。

―南砺市の子供達は野山を走り回ることは身近ですよね?

 そうですね。たいらクロスカントリーの短距離のコースに、小学生が参加していたりしますので、「もう少し山に入りつつも、そこまでの装備は必要ない」くらいのコースから徐々に体験していけば更に伸びるのではと思いますね。

「道宗道と共に成長」

―生まれた頃から身近に道宗道がありましたよね。トレーニングコースでもある道宗道は、その頃から走っていましたか?

 

 走ってもいましたし、走ることが好きでしたが、遅かったですね。「何で好きなことを上手くできないんだろう?」「もっと速く走りたい」という気持ちがあって少しづつやってきたという感じです。短距離も長距離も遅かったですよ。クラスのマラソン大会で最下位とかです。速い選手と自分はどう違うのだろう…と考えながら、未だにアップデート中だと思っています。

―思ってもみなかった答えに驚きました。今では素晴らしい実力をお持ちですが、いつ頃から成長を感じましたか?

 自分ではまだ成長は実感していません。今まで走っていた同年代の選手が辞めたり…で、自分がたまたま残っているだけかな…とか、そんなことを仲間と話したりしていました。

「日本一の山で日本一を目指す」

―高瀬さんは自衛隊で陸上競技に取り組んでいましたよね?(トップアスリート集団)


 立山マラニックで優勝した時が記念大会で、マレーシアのキナバルのレースに招待されました。そこにたまたまいらした自衛隊のスカウトの方と出会い、「もう少し走りたい」と希望したら「来てみないか」と声を掛けられ、受験をして入りました。スカウトと、自分の希望が組み合ったという感じです。
富士山の麓の御殿場市に所属していたので、あの場所は練習場所でもありましたし、自分にとって第二の故郷ですね。未だに富士登山競争も登山駅伝も出場し続けています。登山駅伝はチームで優勝したので、富士登山競争で優勝したいという思いは強いですね。富士山という日本一の山で優勝したら本当に日本一だろうという感覚が自分の中ではあるので。ロードの選手もトレイルの選手も参戦する複合的な大会という意味も含めて、そこが日本一の山で日本一を決める大会だと思っています。


「大切にしていること、そしてバランス」

―お仕事柄、今日のように土日関係なく働いたり、練習時間の捻出やスケジューリングは難しいですよね。更には最近はご結婚もなさって、環境も随分変わったと思いますが。

 結婚してからの生活のリズムは確かに随分変わりましたね。結婚前は自分のことだけを考えていれば良かったですが、そうではなくなったというのは大きいです。今までのように、自分が自由に使える時間が減った中でも、自分はプロではないので、仕事はきちんとやった上で走るというか。仕事もちゃんとできていないのに大会のことばかり考えていては、本末転倒じゃないですか。日常生活と仕事を大切にすることがメインで、その中で自分の時間を見つけます。気持ちはそう思っているつもりです。応援もしてくれていますし、食事は気を遣ってもらっていますね。バランス良く野菜を多めになど、お願いしています。

―選手を歓迎する南砺市民でもある高瀬さん、南砺市の良さを伝えるとしたらどのようなところでしょうか。

 身近すぎて、自分たちが良さを分かっているか…というのもあるのですが…。実際に来て、見て回ってもらうのが一番かと思います。道宗道に限らず、利賀天空トレラン大会だったり、南砺市に限らず、富山のあらゆる大会に出場して、大会も楽しみつつ、開催地で気になるところを見て回って欲しいですね。


 高瀬選手を取材した理由は、参加選手であり、且つ開催地の南砺市民でもあるからだと始めに述べました。しかしそれだけではありません。まだまだマイナースポーツのトレイルランニング。この競技でのプロ選手は、数えるほどしか存在しません。そのプロ選手すら、トレラン以外の世界に出てしまうと無名です。つまり、この競技を「職業」とできる人は一握り。殆どの競技者は、本業、家庭と競技を両立させている。そして実力者ほど、その両立で葛藤している選手の多い世界です。その中で高瀬選手は、何を大切にするべきかは既に自分の中で決めている。プロ選手の錚々たる所属チーム名が並ぶ選手一覧の中、一際目立つ「富山干柿」の文字。高瀬選手のご実家の家業です。チーム名が誇りの証。しかし自営業だからといって時間が自由になるわけではない。むしろ、柿という生き物を扱うのですから、会社に所属する以上に自由な時間は限られます。取材した日曜日は、雪の合間の貴重な晴れの日でしたが、それは剪定日和という意味でもあります。好きなようにトレーニングに時間を割けるわけではありません。そして昨年はご結婚もなさったという事で、多くの方が頭を悩ませる「家庭との両立」「練習時間の捻出」を考えないといけないのは高瀬選手も同じ。しかし彼はそれを「問題」ではなく「糧」としています。大切にするものが決まっているから。
実力者の彼の置かれた環境は、実は私達と変わらない。もしかすると誰よりも厳しいものかもしれない。その中でも、「富山干柿」の実力がプロをも脅かすこともある。置かれた環境が満足できるものでは無いのは皆同じ。その中で実力を発揮し、活躍を見せる高瀬選手の言葉は、多くのトレイルランナーに何かヒントを与えてくれるのではないかと思い、今回の取材に至りました。
今回は本命の富山マラソンを控えているということで、ミドルに参戦下さるとのこと。しかし、最後まで、「あの道を走れるならロングでもいい」と悩んで下さった高瀬選手。「好きなコース」に挙げて下さったあの急登です。高瀬選手を魅了する急登も含め、非常にバラエティに富んだトレイルコースの道宗道。皆さんも是非楽しんで下さい。

トレランだけでなく、多くの競技で必要とされる体幹。これは、ぶれない精神の元にこそ備わるものなのではないか。高瀬選手のお話を伺うと、そう思わされるのです。
クラスでビリだった少年の「速くなりたい」という直向きな想いが、今、富士山の頂を掴もうとしている。

(聞き手:筏井しずか)